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フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第4回】ピニンファリーナのコントロール

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フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第4回】ピニンファリーナのコントロール

フェラーリの思惑

text:Shinichi Ekko(越湖信一)

モンテゼモーロ、フェラーリを去る

photo: Ferrari S.p.A.フェラーリとピニンファリーナの関係は特殊なものといえた。ピニンファリーナはフェラーリに対してサプライヤーだけではなく、パートナーとして唯一「物のいえる存在」だったのだ。そしてフェラーリのボディ担当としての地位を死守したいピニンファリーナと、それを取り崩そうとするフェラーリの思惑は、両者の関係性を決める重要な力学であった。

フェラーリ側にしてみれば、ある種の鬱憤が長年に渡りたまっていたに違いない。「カネを出しているのは我々だ。であるのにあれこれ注文を付ける。そして成功作が生まれれば全てピニンファリーナの手柄であると吹聴する…」ということなのだ。

ちなみにテスタロッサ系までの12気筒モデルはそれまでピニンファリーナの製造であり、鋼管バックボーンシャシーはモデナのヴァッカーリ&ボージ社が手掛けた。そして前述のように348系以降の8気筒系は、完全にスカリエッティでボディの製造が行われることになった。(ディーノ206、246以降、308なども基本的にはスカリエッティによる)。12気筒モデルは456GTの途中からトリノのフィアット系ファクトリーがボディワークを手掛け、360モデナ以降のボディはすべてスカリエッティ製となった。

幻となった412後継モデル

モンテゼーモロ体制として初めてローンチが行われたニューモデルは2+2の456GTであった。このお披露目には彼のF1人脈が大きく活かされ、ラグジュアリー・マーケットに強く訴求した。

舞台はブリュッセルのサンカントネール公園。ジャック・スワター率いるガレージ・フランコルシャンとフェラーリの40年に渡るコラボレーションを祝う記念イベント「FF40」の目玉として発表された。登場した456GTは、前作の412とは大きく趣を異にする、グラマラスでスポーティな姿のグラントゥーリズモであった。

モンテゼーモロは456GTの開発時にフィアット役員として目を光らせており、当時こんなエピソードがあった。ピニンファリーナからの提案による「次期412」は発表の秒読み段階だったが、1989年フランクフルト・モーターショーの、まさにプレスディに開発の承認が取り消されたという。

BMWがその日発表した850i(E31)が、開発中のモデルに酷似していたのがその理由というのだ。当時の関係者は「強い影響力を持った人物からプロジェクトをゼロから見直せ、との命令が下されたという。このモデルは(BMWと同じように見えるほど)あまりに普通過ぎる、というのがその理由だった」と証言する。おわかりだと思うが、その「強い影響力を持った人物」こそがモンテゼーモロであったのだ。

550マラネッロが誕生のきっかけは

モンテゼーモロは348系の商品力を向上させたF355や、8気筒系を抜本的に改善する新規プロジェクト(のちの360モデナ)を立ち上げると共に、新しいフラッグシップたる12気筒モデルのリサーチに入っていた。

そんなタイミングでピニンファリーナからひとつの提案があがってきた。それは365GTS/4以来ラインナップから消えていたFRのスパイダーを復活させるというものだった。

456GTのシャシーを短縮し、フロントにV8エンジンを載せ、オープントップモデルのニーズが高い北米をターゲットにしよう、というニッチなモデル提案だ。いわば、カジュアルなデイトナ・スパイダーというイメージであった。

このアイデアにモンテゼーモロは食いついた。北米の顧客からはゆったりとドライブを楽しめるラグジュアリーモデルを求めるニーズが高いことに彼は気づいていた。テスタロッサ系ではキャビンも狭いし、ラゲッジスペースも極めて小さい。しかし、これをFRにすればレイアウトの自由度も高まり、そういったニーズの対応できる。

カジュアルなV8スパイダーの提案は、フェラーリの12気筒フラッグシップモデル、それもクローズドのクーペボディへとモンテゼーモロのアタマの中で大きく姿を変えていった。

デイトナというフェラーリの重要なアイコンへのオマージュ。それはブランディング的な観点からしてもフラッグシップにふさわしい。そもそもフェラーリのフラッグシップを欲する層に、尖ったミッドシップのモデルがふさわしいのか、という問題意識もモンテゼーモロは持っていた。

ターゲットである富裕層がレースドライバー並みのドライビングスキルを持っていることは稀有であろう。そんな彼らにとっては御しやすく、快適なドライブを楽しめるということの方が重要であり、そう考えるならFRがベストではないかと彼は考えたのだ。

モンテゼーモロはピニンファリーナに彼のアイデアを伝え、「コードネームF133」プロジェクト(のちの550マラネッロ)はスタートした。そう、そのころにはフェラーリとピニンファリーナの力関係も大きく変化していた。アニエッリ家をバックに持つ若きカリスマの押しは充分に強く、フェラーリ社内の意思決定もまとめることができた。

一方、セルジオ・ピニンファリーナは高齢で、以前のような強い存在感を醸し出すことは難しかった。ピニンファリーナは、フェラーリ=モンテゼーモロの意見に翻弄されることになっていたのだ。

長き蜜月の終焉

時は流れ、8気筒の458イタリア、初のAWDモデルであるFF、そしてフェラーリ・スタイリングセンターとピニンファリーナの協業で完成したと発表された2012年のF12ベルリネッタを最後に、フェラーリとピニンファリーナのコラボレーションは表向き終了した。

もはや各自動車メーカーは、自前のデザインセンターを持つのが常識となっていた。以前にも増して、空力やエンジンのクーリングなどのエンジニアリングとスタイリングが密接にからみ合っていたからだ。

2012年に送り出されたF12ベルリネッタを最後に、フェラーリのデザイン開発はフラヴィオ・マンツォーニ率いるフェラーリ・デザインセンターで内製化されることになった。ここに長きにわたったフェラーリとピニンファリーナ両社の蜜月は正式に終焉を迎えた。

モンテゼーモロの人情味から誕生したセルジオ

しかしエンツォと深い関係のあったセルジオ、そしてピニンファリーナ家へ彼が敬意を払わなかったというワケではなかった。そのあたりのスマートかつ、人間味ある対応が彼の持ち味であった。2013年にセルジオが鬼籍に入り、それと同時にフェラーリとピニンファリーナ両社の関係は60周年を迎えていた。

その当時は既に両社の専属デザインスタジオという関係性は終っていた。セルジオの息子であるパオロ・ピニンファリーナは、モンテゼーモロに「セルジオへ捧げる1台をフェラーリバッジと共に世に出したい」と提案した。この当時の関係性からは「あり得ない」オファーに対して、モンテゼーモロはイエスと即答したという。

これが458イタリアをベースとして6台が生産されたフェラーリ・セルジオ誕生の裏話だ。懇意にしていたジウジアーロの存在をちらつかせながら、ビジネス的な駆け引きを迫る彼の手腕とは違った人情味あふれる一面を見せてくれたのであった。

続きは2024年5月11日(土)公開予定の「【第5回】ラインナップの刷新と技術革新」にて。

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